きみとぼく 第4話


眼帯は偉そうだ。
チビゼロも偉そうだが、眼帯はその上をいく。
携帯電話を椅子代わりにし、サイズが小さいうえに足も短いのに器用に足を組んで座っていた。よくアレでバランスが取れるものだと感心したが、よく考えれば機械だからバランサーが内蔵されているのだろう。
しばらくしてからチビゼロも携帯電話に腰かけたので、彼らの足の長さだとこのぐらいの高さが座りやすいのかもしれない。

「なぁ、水をくれないか?」
「さっき飲んだだろう。もうしばらく時間を置かないと駄目だ」

眼帯は口を開けば水水水と水を欲しがる。
煩いから水を与えると、お腹いっぱいになっても飲み続ける。
限界を超え、お腹が膨れ上がっても飲み続けるので、今は水から離しているが、いつの間にかお腹は引っ込み元に戻っていた。あの水は一体どこに行ったのだろう?この眼帯を動かすための燃料は水なのか?

「水…水を…水…」

放置していると両手で頭を抱え、苦しそうに水水と言い始めた。
冷却装置が壊れ、水で冷やしているかもしれないため、諦めて水を用意する。
さっき不味いと言われた水だが文句は言わせない。
深めの小皿に水を入れると、がぶがぶと口をつけて飲み始めた。
必死に飲む姿が哀れに見えるせいか、胸が苦しくなり目をそらした。
やはりお腹が膨れても飲み続けるため、皇帝が心配しチビゼロが止めに入るが、同じ体系+水の重さが加わった眼帯相手ではチビゼロは非力すぎた。
邪魔だと言わんばかりにチビゼロを突き放し、眼帯は皿の中に転がり落ちたが、それでもまだ水を飲み続ける。
どこかの機能が壊れて水を必要としているように、どこかの機能が壊れて際限なく水を取り込むのかもしれないと、眼帯のマント部分をひょいとつまみ皿から離し、皿を取りあげた。あれだけ入れていた水は半分ほどに減り、眼帯の腹は異常なほど膨れ上がり、まんまる体型になっていた。漫画などで使われる球体の体型だ。よくできている。きっと伸縮性の高い素材で作っているのだろう。でなければ腹が裂けてしまうところだ。
まん丸の眼帯を目にし、チビゼロはゼロらしからぬ素っ頓狂な声をあげ、まさかここまで膨れ上がっていると思わなかったのだろう皇帝も同じような声をあげ、起き上がろうとしたが痛みが走ったのかそのまタオルの上でのたうちまわり、チビゼロはショックのあまり固まって動かなくなった。
はちきれんばかりの眼帯の腹を見ながら、流石に 吐き出させた方がいいのだろうか?と考えた。上下逆さまに持ってお腹を押せば吐き出すかもしれない。
そう思い手を伸ばした時、眼帯はまん丸の体を器用に起こして座るとこちらを見た。
その表情に心臓がどきりと跳ねた。
可愛いとか愛しいとかそんな意味ではなく、辛く苦しいほどに心臓が痛む。
眼帯はそれまでの生意気な表情とは完全に違う、無邪気で穏やかな表情をしており、こちらを見て嬉しそうに笑っていた。二頭身の人形だから元々可愛かったが、それとは違う……これは幼い子供なのだとすぐに解った。

「今日は暑いね。ほら、見て。向日葵が、綺麗だね」

嬉しそうに言うそれは、先ほどとは完全に別人で、それを見た瞬間に自分の中の何かが悲鳴を上げた。背筋がざわざわし全身に鳥肌が立った。歯の根がかみ合わなくなり、反射的にトイレに駆け込むと吐いた。
あんな小さな人形の、あんな意味の無い言動に動揺して吐くなんてありえないことだ。
意味が解らない。
解らないが、急に怖くなった。
何が解らず何が怖いのかが理解できず、体の震えの意味も解らず。
先ほどの眼帯の言動が脳裏によみがえるたびに吐き続けていると、来客を知らせるチャイムが聞こえてきた。
慌てトイレを出てテーブルをみると、眼帯は皇帝の隣で体を丸めて寝ていた。その体はもう元に戻っていたが、中身は恐らく先ほどのままだろう。眠る顔が、生意気なあの顔ではないから。幼く、穏やかな表情だから。
やはり壊れているのだ。
壊れているから、意味不明な事を口にするのだ。
チビゼロは何も言わずこちらを見ていた。
テーブルの下には水が入っていた皿が転がり、小さな水たまりが出来ていた。

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